細胞外マトリックス分子のプロテオーム解析
矢間 太
(横浜市立大学・医学部・第一解剖学研究室)
研究の背景
 細胞外マトリックス(ExtraCellular Matrix、以下ECM)は、細胞と細胞の間を埋めたり、つなぎ合わせたりして、組織成分としては構造を維持するだけの静的な構造物であると考えられていた。ところが、新しいECM分子、laminin、fibronectin、tenascinや thrombospondin、が次々に発見された。古典的なECM分子であるコラーゲンやプロテオ グリカンにも、新しい分子種が発見された。これらの発見にともなって、各分子に対する抗体が作成され、これら分子の生体組織での発現パタンが胚発生や癌化に極めて 重要に関与していることが解明された。さらに最近では遺伝子工学的な研究成果からも、ECMが細胞の外側から細胞の移動・分化・形態形成・増殖・代謝や遺伝子発現などにも能動的な影響を及ぼしていることが解明されてきている。

ECMと疾患との関係
 Ehlers-Danlos症候群、Marfan氏病や筋ジストロフィーなどは、ECM分子そのものの遺伝子異常が原因となって発病することが解明された。肝硬変症、動脈硬化症、糸球体硬化症などの線維化硬化病変では、ECMタンパク質の異常な蓄積・組成の変化が起きていてることが解明されてきている。この様なECM分子自身が密接に関与している 色々な疾患の病像を見ると、疾患とは外傷や病原体の様な外因によるもの以外は、全てECM分子の異常ではないのかといった考え方も出てきている。なぜなら疾患の内因とはさかのぼれば全て遺伝子の変異にまでたどり着き、遺伝子の変異が細胞、組織、 臓器へと時間を経て発現するのが疾患な訳で、この経過の立て役者がECM分子そのも のではないかとも空想させられるからである。基礎科学のみならず、臨床応用の立場からもECM分子は日陰の存在からスターの座に昇格したことは周知の事実である。

これからのECM分子の解析法
 2001年迄にはヒトを含む多くの生物において、DNAの全塩基配列が決定すると予測されている。塩基配列が決定されれば、データベースを利用した相同タンパク質の検索で遺伝子の翻訳産物であるタンパク質の機能推定が理論上可能となる。しかし実際には、タンパク質は翻訳後に種々の修飾を受けることが知られているので、データベースから機能推定が可能となるタンパク質は全体の30〜50%以下ではないかと考えられている。従って実際に分離精製したタンパク質の生化学的・物理学的な性質に関する情報を可能な限り収集し、全てのゲノムDNAとこれらがコードするタンパク質とを完全に対応させるというプロテオーム(PROTEOME=PROTEin+genOMEからの造語)解 析こそがポストゲノムをふまえたこれからのタンパク質解析だと考えられる。私達はプロテオーム解析をECM分子の解析に取り入れるべく試行錯誤している。最前線とは程遠い私達の教室での実験結果と、将来の展望を紹介する。


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