炎症性サイトカインとしての神経成長因子
松田 浩珍
(東京農工大学農学部附属家畜病院)
 内・外原因に基づいて発生した組織損傷に対して,生体は短時間の内に応答し,変性および壊死組織を無害化・排除し,最終的に完全もしくは不完全再生をはかる。この過程において,炎症反応性細胞および末梢の微細環境を構成する細胞群が中心となって機能する。これらの細胞の多くは,様々な炎症性サイトカインを分泌し,これらが相互に作用する(サイトカインネットワーク)ことによって,普遍的な組織修復が誘導される。末梢の交感・知覚神経の生存,分化,機能維持に必須のポリペプチドである神経成長因子(nerve growth factor, NGF)も,変ォ・離断した神経線維の再生のためには,局所にて産生・分泌されると考えられる。一般に,炎症性サイトカインの生物活性は,複数の細胞組織にわたることが多いので,NGFもまた神経系以外の細胞組織に対して作用しているかもしれない。事実,新生児ラットにNGFを連続注射すると, 皮膚のマスト細胞が増加することや,血小板の形態変化を誘導することなどの歴史的研究報告は,NGFが炎症過程において何らかの影響を与えている可能性を示唆するものである。この観点に立脚し,我々研究グループはカナダ,マックマスター大学J. Bienenstock博士らとともに共同研究を開始し,NGFが各種免疫・炎症担当細胞(好中球,好酸球,好塩基球,マクロファージ,マスト細胞など)に対し,分化の誘導,生命の維持(アポトーシス抑制),および機能亢進作用を有することを実証した。また,末梢血中のNGFは,通常,検出限界以下に維持されているが,fighting stressや皮膚創傷をマウスに負荷すると数時間以内に,血中NGF濃度が上昇し,300 ng/mlをこえることもある。in vitroでのneurtrophic activityの最大有効濃度が約50 ng/mlであることを考慮すると,これら状況下で産生されたNGFがいかに大量でin vivoにおいて意味のあることかがわかる。さらに,マウスの皮膚創傷部位にNGFを塗布すると,創傷治癒が促進される。これらの研究成果は,組織修復や免疫・炎症反応において,NGFが重 要な炎症性サイトカインの一種として機能している仮説を支持している。本講演では, 免疫・炎症担当細胞を中心に,NGFの作用に関する研究を整理し,NGFの新たなる生理活性とその意義を考察してみたい。


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