気道の神経終末の形態
山本 欣郎
(岐阜大学農学部獣医学科家畜解剖学講座)
 気道には豊富な神経支配があり、気道抵抗の調節、咳やくしゃみ反射などによって生体の恒常 性を保つ働きを有している。とりわけ,感覚神経に関しては、多くの電気生理学的研究によっていくつかの受容器が同定されている。形態学分野においては,1897年にPloshkoがメチレン青生体染色法を用いてラットやウサギの喉頭蓋粘膜上皮下に葉状神経終末を発見し,Larsellが1921年に気管支平滑筋に樹枝状の神経終末を見いだしたことが気道神経終末に関する研究の始まりである。最近では,substance Pやcalcitonin gene-related peptideに対する免疫組織化学によって気道粘膜上皮中の無髄の自由神経終末の研究が広く行なわれ,喘息などの疾患との関連性が考察されている。しかしながら,気道における神経終末の形態に関する報告はいまだ散発的で,どのような神経終末が存在し,どのように分布しているかについて謎が多い。著者らは,粘膜や筋層をまるごと剥離したホールマウント標本あるいは100μm程度の厚い切片標本を作製し,それらを neurofilament protein (NFP)やproteingene product 9.5 (PGP 9.5)などの神経マーカー蛋白に対する抗体を用いて免疫染色することによって,気道中に多様な形態の神経終末を見いだすことに成功した。本稿では,我々の結果を紹介し,これらの機能について考えてみたい。

1 鼻腔
 鼻腔の奥の方には嗅粘膜が存在し,匂い刺激を受容していることは周知の事実であるが,呼吸部上皮においても三叉神経由来の知覚受容器が存在し,呼吸調節に関与している。われわれの検討の結果,呼吸部粘膜には太い神経線維に由来する葉状あるいは球状の終末部を有する小体状終末が粘膜上皮内に存在することがわかった。この終末は,静脈洞の近傍に位置し,上皮内に軸索が進入した後に多数の終末枝に分岐するという特異な形態を示す。この構造は,骨性あるいは軟骨性基礎を有する鼻腔の中で最も可動性に富む部分に位置することから,鼻腔内圧変化を受容する圧受容器の可能性が高い。
 電気生理学的研究によって,鼻腔には圧受容器の他に冷受容器,動き受容器,侵害受容器の存在が種々の動物で報告されてきた。このうち,動き受容器は鼻翼の運動によって興奮することから,鼻孔散大筋などの鼻孔の開大に携わる諸筋の中にある筋紡錘や腱紡錘,あるいは鼻軟骨の軟骨膜周辺にある樹枝状の神経終末がこれに相当すると考えられる。また,侵害受容器は無髄神経に由来することが知られており,粘膜上皮中の自由神経終末と考えられている。自由神経終末の多くはsubstance Pとcalcitonin gene-related peptide (CGRP)に陽性で、一次求心性ニューロンに特徴的なペプチド発現パターンを示す。侵害受容器が受容した刺激は細胞体まで戻ることなく,途中の分岐から直接血管や腺などの効果器に向かうという軸索反射という概念が一般的になっているが,自由神経終末が分岐する像は頻繁に観察され、軸索反射の形態学的基盤になっているようである。

2 咽頭
 咽頭には,舌咽神経に由来する知覚受容器が存在することが知られている。すなわち,内圧の変化を感受する圧受容器と触刺激に応答する刺激受容器の存在が報告されている。しかしながら,咽頭の神経終末の形態学的研究は乏しく,味蕾および自由神経終末の存在が知られているにすぎない。咽頭は,消化器道と呼吸器道の交差する部位であり,呼吸器としての性格と消化器としての性格の両面を合せ持つという特徴を有しているので,ここでの神経終末について生理学と形態学の両側面から今後詳細な検討が必要である。

3 喉頭
 喉頭は消化器道と呼吸器道の交差点の出口であり,声帯という発声器官を有しているという解剖学的に重要な位置にあることから知覚神経支配も大変豊富で,電気生理学的に様々な受容器が同定されてきた。
 喉頭粘膜の上皮直下には,葉状あるいは糸球状の終末部を有する小体状神経終末が存在する。葉状神経終は太い軸索が上皮直下で数回分枝し,葉状の終末部あるいは糸球状の終末部を形成して終止する。また,糸球状神経終末は,葉状終末と同様に太い軸索から起こり、上皮下で数回分枝を繰り返した後細い線維が糸球状に集積した像をなす。糸球状神経終末の中には少数の葉状の末端部を有するものも認められ、葉状終末との関連性が示唆される。終末の分布は、葉状終末,糸球状終末ともに喉頭蓋基部、披裂軟骨部の粘膜に多く分布し,ほとんどは同側の迷走神経の前喉頭神経内枝に由来する。粘膜表層に認められる点,喉頭蓋の基部に多く分布する点などが電気生理学的に同定された圧受容器と一致し,これらの終末は喉頭腔内の圧変化を受容するための構造であると考えられる。
 また,喉頭には口腔の舌乳頭に認められる味蕾と同様の構造が存在する。味蕾は、喉頭蓋や披裂軟骨部などの口腔や咽頭に接する部分に多い。味蕾には、太い軸索と細く軸索瘤を有する線維の2種類が分布する。前者が味蕾の受容する刺激を伝達すると考えられ、後者は味蕾の局所調節に関っていると理解されている。細い神経線維は味蕾内に分布するものと味蕾直下に分布するものの区別がある。味蕾の感覚細胞はセロトニン、protein gene product 9.5などの神経内分泌マーカーに対する抗体に陽性である。喉頭の味蕾は、味覚よりもむしろ気道の反射性調節のための受容器という意味で大切であると考えられ,機械刺激と化学刺激の双方を受容することができる刺激受容器(irritant receptors)との関連性が指摘されている。
 さらに,喉頭粘膜上皮内には自由神経終末が存在する。喉頭における上皮内自由神経終末は部位によって分布密度に大きな差があり、輪状軟骨部などには多くの上皮内自由神経終末が認められるが,声帯ヒダにはほとんど終末が認められない。
 以上の他にも喉頭には動き受容器および冷受容器が報告されている。動き受容器は喉頭筋の動きによって興奮することから,喉頭筋内の筋紡錘や軟骨膜の神経終末がそれにあたると考えられる。また,冷受容器と考えられる構造は見い出されていないが,皮膚の冷受容器の形態を考慮すると比較的単純な構造をしていると考えられる。

4 気管、気管支
 気管筋や気管支平滑筋内には樹枝状神経終末が存在する。これらの終末の長軸は平滑筋の走行に平行しており,起始は太い軸索に由来し,葉状や球状の膨大部で終止したり網工を形成した後に終止する。樹枝状神経終末は喉頭側で密に分布し,肺胞に近づくほどその数は減少する。電子顕微鏡によって、多くの末端部は結合組織中に存在することが確認されたが,平滑筋細胞と直接接触する場合もまれに認められる。この終末は迷走神経に由来するが、気管の前方三分の一では前喉頭神経を経由し、それ以降の部分では迷走交感神経幹と反回喉頭神経を経由する。また,神経支配の同側性は気管前部では明らかであるが後方に向かうに従い不明瞭となる。この終末は、平滑筋の伸展を受容するための構造と思われ,Hering-Breuer反射に関与する伸展受容器(slowly adapting stretch receptors)に相当すると思われる。
 一方で、calcitonin gene-related peptideやsubstance Pに陽性の上皮内自由神経終末も存在する。形態学的な特徴は鼻粘膜や喉頭のものと等しく,無髄の軸索瘤を有する神経線維が上皮内で分岐している。また,現在のところ刺激受容器(irritant receptor)と思われる構造は見つかっていない。

まとめ
 以上のように気道には様々な構造の神経終末が分布し,各々が特有の刺激受容機構を有していると考えられる。しかしながら,個々の終末構造の有する正確な機能はほとんどの場合不明なままである。今後,手術時の麻酔管理や呼吸器疾患時の呼吸管理等を円滑に行なっていくためにも呼吸器の神経の基礎を良く知ることがますます重要になっていくことが予測され,個々の終末が有する生理学的機能を決定づけていくことが望まれる。また、三叉神経,迷走神経などを介した外来性の調節機構のみならず内在性神経の局所反射による調節についても今後注目していく必要があると考える。


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